<碓田 のぼる 選>
金賞年末の収支を終えてため息の 息子の白髪とみに増えたり
コロナ禍の中での、厳しい生活をリアルに表現しており、心を打つ。「ため息」をする息子、その「白髪」の増えているのを見つめる母親―そこに流れる親子の情愛が、鮮やかに浮かび上ってくる。それは生活とたたかう家族の姿でもある。
銀賞ありがとう呟き細く息を吐く 白寿の舅は介護いま解く
義父の最後の一瞬を、冷静に、しかも愛情深く見守って歌っている作品の世界は、感情表現がおさえられているだけ深く、切ない。義父を主語とし「介護いま解く」と歌っているのは、作者の見つけ出した表現であろう。万感がこもる。
銅賞孫さくら十五の春にいどみたり さくら咲かせて受験を終えぬ
この一首のキーワードは「さくら咲かせて」であろう。孫が十五の春の受験に合格したのである。「さくら」が意味を変えながら登場するところに面白味と作者の工夫があった。作品にはある種の緊張感と「さくら咲かせ」た安堵感があり、歌は明るい。
佳作地吹雪の秋田の野道辿りゆく 新聞配達小五の君が
佳作むらさきの囲炉裏燻る土間近く 灯火照らす酒盛りのあと
佳作彼岸花炎のごとき花朽ちて 寂し気に立つさみどりの茎
佳作さよならは言いたくないとおもう女 演歌にたくして手を振るわれは
佳作冬がゆき春夏秋と過ぎてなお 二度目の冬もコロナ残れり
補欠携帯を置き忘れたと勘違い帰宅後発見、いつものカバン
総評
応募作品は、15人52作品であり、その中からの選考であった。佳作作品の中には入賞に近い力の作品もあった。総じて入賞作品との違いは、短歌への日常的な関心とそれへの努力、作歌の持続のように思えた。次回コンクールには佳作の人々の中から入賞が出ることを楽しみとしたい。