<碓田 のぼる 選>
金賞作業終え埃はらって見上げれば疲れも軽し夕焼雲に
この作品の最も優れた点は、作者の健康な労働観である。働く自己への卑しみなど微塵もない。それは、働く者にとっては、労働は誇りであるし、それは未来を切りひらいていく根本の力であると信じるが所以であろう。「疲れは軽し」はそうした思いを凝視したこの一首のキーワードである。
銀賞頼むよと己が身体に声掛けて現場作業の一日に始まる
この作品の第一句「頼むよ」は、この歌の命のように一首を支えている。それは、現場作業の困難さと作者のやさしさとを読む人に伝えてくる。自分の体に声をかけるとは、作者の見出した新風であろう。
銅賞葬儀にも納骨参加もかなわざり五山の送り火に思いをたくす
血につながる人の死にも弔いにも参加できなかったことの嘆きを、五山の送り火が肩代わりしてくれているように燃えているのである。コロナ禍の中で、作者は母を亡くした。その悲傷である。