第37回 仲間の作品コンクール 俳句の部

<田中 千恵子 選>

金賞腰袋 くるりと落とし 仕事納神田 春之さん(足立支部)

 この1年、目には見えないコロナウイルスに脅かされ続けた日々であった。仕事はへったが、コロナにかからず怪我もせず、何とか無事に「仕事納」の日を迎えることが出来た。その安堵感が「腰袋くるりと落とし」によく表われている。終息の見えないコロナ禍だが、今年の「腰袋」には、〈希望〉という明りを入れておこう。

銀賞雪催い 降ってくれるな 仕事が止まる宮本 照代さん(西多摩支部)

 「雪催い」は雪が降る前兆である。空が墨を流したように曇る。それを見て、明日は雪か、と職人たちは感知する。掲句では、仕事に出られなくなるから「降ってくれるな」のストレートな言葉が切実だ。仕事が天候に左右される現場職人の典型的な1句といえよう。

銅賞チチロ鳴く 取り壊し待つ つかの間を坂本 正美さん(三鷹武蔵野支部)

 「取り壊し」は明日か、明後日か。長年その家に住んでいた人はもうすでに引越して誰もいない。空家になった家の草むらでチチロが鳴く。それはかつての住人の哀惜の思いのように聞える。しみじみと来し方行く末を思わせる一句である。

佳作鉋研ぐ 手元に温かき 春の風石川 英隆さん(狛江支部)

佳作鼻唄に のせて壁塗る 遅日かな田中 明さん(大田支部)

佳作怪我よりも 怖しコロナや 寒に入る相原 辰子さん(練馬支部)

佳作熱燗を 換気しながら 酌み交わす新藤間 洋子さん(台東支部)

佳作年の瀬や マスク美人も 小走りに宮野 宏さん(練馬支部)

 1句目、水を差しつつ手研ぎをする鉋。その手元に春の風が。実感の1句。2句目、日脚がのびて春。鼻唄にのせて、がいい景となっている。3句目、仕事を休まなければならないので、職人は怪我が怖い。それにもましてコロナは死に至る人もいて、怖い4句目、換気をし、ソーシャルディスタンスで席をあけ、それでも気のおけない仲間と酌み交わす酒はうまい。5句目、マスク美人もマスク美男子も年の瀬は皆走る。今年の暮は、マスク無しで走りたいものだ。

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