敷地 あきら 選(佳作入選者は順不同)
*応募は、14支部22人、96句

選評 敷地 あきら

■金賞
買ひ置きし軍手下ろして初仕事  田中 明 (大田支部)

【 評 】
 〈軍手〉(旧陸海軍兵士用だったからいう)が、白い作業用手袋なのだ。上五・中七、心も新た初仕事への逞しい意欲がうかがえて頼もしい。今後とも労働の中で鍛えられ磨かれる詩情、貴重な句といえよう。

■銀賞
デモ終りビル風うれし酷暑かな  清水 文子 (西東京支部)

【 評 】
 東京土参加のデモ行進であろう。酷暑のデモは終り、帰途には女性も腕の腕章をはずし組合旗を畳んだりの忙しさ…。そんなビル街角に涼風がきて嬉しかったという。デモに輝いた美しい顔々が彷彿とする。

■銅賞
少年にもどる八十路の木の実独楽  半澤 ハツ子(目黒支部)

【 評 】
昔の子どもは今日のように高価な玩具などはなく木の実に棒を刺し独楽にして遊んだ。当時の子供の豊かな創造力には瞠目すべきところがあった。揚句、〈少年にもどる〉八十路の夫に感無量の作者がうかがえる。

佳作


赤トンボ今年も来たよと羽ふるう  佐藤 恵世 (杉並支部)
天し拡大行けりまだ麓  神田 春之 (足立支部)
角材に小息を乗せて三尺寝  渡辺 睦男 (江戸川支部)
鶏焼いて炭火が真っ赤どけん祭  斉藤 誠 (台東支部)
この夜だけ賑ふ校庭盆おどり  関谷 博 (江東支部)
還暦に猛暑の中を駆け抜ける  高本 貞雄 (村山大和支部)
混浴の白肌ぼかす谷の霧  佐野 武男 (村山大和支部)
雪しまきいとど妻籠の軒低し  長沢 常良 (江戸川支部)
葉桜や入院生活無事に終へ  島崎 真澄 (西東京支部)
【 評 】
佐藤さん 赤トンボへの優しい語り口、とくに〈羽ふるう〉の具象表現の効果、秋訪れの景が広がる。神田さん 東京土建の組織拡大の活動のようだ。〈まだ麓〉の心象表現、皆さんのご苦労が伝わる。渡辺さん 木材の置かれた猛暑の現場。汗の職人たちの〈三尺寝〉である。斉藤さん 中七、原句〈炭火が燃える〉であった。ただし、〈どけん祭〉の意欲作。作者の今後を大いに期待したい。関谷さん 校庭の盆踊りの楽しさ…。ただし、一晩だけなのを惜しむ作者、懐かしい母校なのかも知れない。高本さん 還暦でも若者のように頑張っている。〈猛暑の中を駆け抜ける〉といった職人的な気合の入れようは生粋の江戸っ子であろう。佐野さん 高齢者、仲良し夫婦の飛騨観光の旅吟なのだ。〈混浴の白肌ぼかす〉は、上五「愛妻の」「老妻の」意味性とも承知し、心の和む句である。長沢さん 〈妻籠の軒低し〉の活写の確かさ。木曽の宿場町、雪のはげしい景である。島崎さん 〈葉桜や〉の深い感慨。長い入院生活から開放された喜びである。

【選のあとに】 敷地 あきら

このたびは、東京土建「第二十四回仲間の作品コンクール」の開催、おめでとうございます。
投句原稿、昨年と変り、高齢化のせいでしょうか俳句経験者の作品が見当たらず初心者の句ばかりですね。しかし、真摯な作者ばかりで、心救われました。どうやら金・銀・銅の三賞と佳作も選出することができました。ほんとうに嬉しく存じます。
東京土建の益々のご発展を祈りつつ…。