碓田 のぼる 選(佳作入選者は順不同)
*応募は、11支部14人、60句

選評 碓田 のぼる

■金賞
冬の陽が街を茜に染め沈む 永遠の地球を祈りたきとき
 篠田 綾子 (葛 飾 支部)

【 評 】
 冬の落日の姿を見ながら、その荘厳さが人の心にしみじみとした思いを呼びおこし、同時に、こうした安らぎをもつ地球がいつまでもと願う、その思いを作者はよく表現している。

■銀賞
席をゆずり呉れし少女は次の駅 その次の駅すぎてなお立つ
 山田 訓 (北 支部)

【 評 】
 人の心の荒廃が進む現実の中で、車中での少女のやさしい心づかいに作者は感動している。感謝の思いをもちながら、少女を暖かなまなざしで見守っている作者の姿が浮かんでくる。

■銅賞
決済を前に倒産通知受く 紙切れとなりし手形数枚楽
 杉本 玲子 (江 東 支部)

【 評 】
 社会生活の一断面を切り取っている。一首には主観的な言葉は一つも含まれていない。事実を端的に歌いながら、読後に、怒りとも嘆きともつかぬ思いを感じさせるのは、事がらの重さである。

佳作

手になじみ砥石になじむかんな刃は 元の姿の半分もなく
 佐藤 恵世 (杉並支部)
【評】長年ともに仕事をして来た道具にたいするいとしみの感情である。

一万の東京土建足立支部 集うちからで暮しを守る
 木下 堅逸 (足 立 支部)
【評】作者は組織に対する信頼と期待の思いを歌っていて力強い。

ひと仕事果し終えたる帰り道 はるかな空にあかね雲見ゆ
 神田 春之 (足立支部)
【評】仕事をしおえた一日の終りの安堵感がすなおに表現されている。

往年は日々の夜なべを凌ぎをり 達者作も老いは著けし  
 日塔 善英 (荒 川 支部)
【評】往年を回顧しつつ老いを嘆いているが、作者の心には強さがある。

洗濯機まわし終えれば今日もまた 時計の針はきっちり十二時
 細野 和代 (村山大和支部)
【評】時間に追い立てられる一日を歌いながら、これに負けない力がひそむ。