敷地 あきら 選(佳作入選者は順不同)
*応募は、16支部、113句

選評 敷地 あきら

■金賞
蚊よ刺すな吾は梯子の上にいる  関谷 博(江東支部)

【 評 】
 夏夕の塗装現場であろう。蚊柱の立つ梯子にのぼり懸命な作業なのである。<蚊よ刺すな>の巧みさ。臨場感の濃い貴重な句である。

■銀賞
初仕事昨日に変はる貌になり  田中 明(大田支部)

【 評 】
 初仕事の現場である。<昨日に変はる貌(かお)に>とあって、正月気分を切り替え、仕事一途の心意気が伝わってくる。真摯な句である。

■銅賞
屈み込む研ぎ桶に見る初氷  木下 文夫(八王子支部)

【 評 】
  寒さ厳しい朝…。愛する大工道具、鑿や鉋(かんな)の手入れなのだ。「研ぎ桶の初氷」とは、さすが作者ならではの発見、新鮮にして異色作である。

佳作


虫の音にとけこむいびき夫と犬  小作 宏子(三鷹支部)
水仙にキスする如く香りかぐ  平部 浄子(大田支部)
公園に老いの席ある小春かな  山根 琴枝(葛飾支部)
減反は大豆にかわり田が畑  石島 弘(東村山支部)
童らの獅子舞太鼓庭先に  佐藤 千代恵(西多摩支部)
【 評 】
小作さん 虫の夜。夫と犬の<とけこむいびき>の滑稽さ。
平部さん <水仙にキスする如く>の率直さ。明るさ。
山根さん <公園に老いの席ある>は、季語<小春かな>の効果。心安らぐ。
石島さん 減反による田が<大豆>畑にの無念さ。
佐藤さん 庭先に舞う<童らの獅子舞>の懐かしさ。正月の素晴らしさ。

参考のためさらに(ひか)れる十一句を選んでみました。

多喜二読み仕事あぶれて冬深し  斉藤 誠 (台東支部)
初日の出祈り叶うか富士聳ゆ  島崎 真澄(西東京支部)
雛壇の前に陣取るランドセル  佐野 武男(村山大和支部)
万緑や木工教室槌の音  相良 辰子(練馬支部)
胃休めと早くも七日粥啜る  喜島 道博(墨田支部)
呼込みの声も嗄れたる師走かな  渡辺 睦男(江戸川支部)
バス待てば枯葉舞い散り肩に背に  佐藤 恵世(杉並支部)
凍る道軍手一つが逞しく  濱田 晴恵(荒川支部)
地下足袋をはいてまつけど仕事なし  寺内 博 (江東支部)
転寝にそっと出されし枕かな  清水 文子(西東京支部)
老妻にあらずいつまでも「美人」仏妻  小林 次郎(足立支部)