敷地 あきら 選

選評 敷地 あきら

■金賞
左官屋のこて(こての)炎天を塗り込めり  半澤 ハツ子 (目黒支部)

【 評 】
炎天下の建築現場、左官工の胸のすくような熟練作業を<鏝炎天を塗り込めり>と詩情豊かに詠われた。

■銀賞
絆創膏取れて妻にもおそき春  関谷 博 (江東支部)

【 評 】
 日々、家事におおわらはの妻の傷が癒え、<妻にもおそき春>と、ユーモアをさそう温かい眼差し、爽やかな日常詠である。

■銅賞
かざぐるま秋をまわして南無水子(なむみずこ)  小野 かほる (西多摩支部)

【 評 】
 秋風の中、水子供養の作者の真摯な姿が心に残る。特に<かざぐるま>の平仮名表記の適切さが良かった。

佳作

子宝祈願鳥居の先に春の海  坂井 和子 (江戸川支部)
北風に背なかおされて集金に  深作 清美 (練馬支部)
霧雨に包まれ最上(もがみ)舟下(ふなくだ)  平部 洋子 (大田支部)
もくせいの花踏みさけて廻り道  佐藤 惠世 (杉並支部)
作業衣に肩ぐるまの()(やま)笑ふ  宮本 照代 (西多摩支部)
【 評 】
坂井さん 鳥居先の春の海に心はずみ、かしわ手の音も高く、子宝祈願の作者である。
深作さん 話しの弾む集金まわり、…。<北風に背なか押されて>と、寒さにも負けずに頑張っておられる作者である。
平部さん <最上の舟下り>は、あいにくの霧雨…。作者は、芭蕉の名句<五月雨をあつめて早し最上川>を思い出しているのであろう。
佐藤さん 香り高いもくせいの落ち花なのだ。<花踏みさけて>と、優しい人柄までもうかがえる。
宮本さん 作業衣の父に肩ぐるまの子は大喜び。<山笑ふ>が利いている。

 なお、佳作には、いま一歩の作品は、次の七句でした。

日短か気合いをいれて夫出る 濱田 晴恵  (荒川支部)
綿虫(わたむし)の高さに積まる能登瓦(のとがわら) 長沢 常良  (江戸川支部)
青梅雨(あおつゆ)や包丁研ぎの背の丸し 桐原 辰子  (練馬支部)
(うら)らかや時計屋の時みな違ひ 田中 明  (大田支部)
石垣に居場所選んだ(すみれ)かな 島崎 真澄  (西東京支部)
待ちわびた採用通知花の下 佐野 武雄  (村山大和支部)
獅子頭(ししがしら)とれば(おさ)なの笑顔あり 佐藤 千代恵 (西多摩支部)