碓田 のぼる 選

選評 碓田 のぼる

■金賞
塗り終えて黒く輝く大屋根を施主と見ており歩道橋の上に
 山田 訓 (北支部)

【 評 】
 この一首、読後のイメージが鮮明である。歩道橋の上にわざわざ行って、少し離れたところの大屋根を見ているのであろう。二句の「黒く輝く」に、作者の仕事への誇りがある。言外に流れるのは、労働の後の充足感である。

■銀賞
ピーク時の五割を(くだ)る売上に事業仕分けのすべもあらざり
 杉本 玲子 (江東支部)

【 評 】
 活気のあった時と不況の今との対比が切実に歌われている。政府は、「事業仕分け」という手法でムダを見つけ、財源を生み出そうとしているが、「仕分け」るべき仕事が半減してしまっていれば、まさに「すべもあらざり」と嘆きは痛切。

■銅賞
 改築の打ち合せする(つま)の声はづみてし受話器にぎりつ
 篠田 綾子 (葛飾支部)

【 評 】
  久し振りの仕事を得た夫の喜びがよく表現されている。「声はづみてし」は、一首の表現の中心。また、結句の「に
 ぎりつ」も、さりげないながら、夫の意気込みをリアルに伝えている。

佳作

露天風呂にぽつねんと浸る夜半(よは)澄みて小笹(こざさ)の葉ずれ秋ざむの那須
 日塔 善英 (荒川支部)
【評】「夜半澄みて」は、作者が深く思い入れている表現。その深閑とした中で、晩秋を感じとっている姿。一首は落ち着きをもつ。

深川の不動詣(ふどうまい)りの護摩札(ごまふだ)に孫の名全部妻は書きたり
 遠藤 喜一郎 (台東支部)
【評】事実を報告しているような気配を見せるが、孫の幸せを願う妻の思いを表現しており、同時にその妻へのいとしみも。

あじさいは女の一生と人は云う色あせてなお枯れて立ちいぬ
 細野 和代 (村山大和支部)
【評】女の一生を花のさかりのあじさいが枯れるまでの姿と重ねる。この歌にこもる作者の思いは、年をとってもしっかり立っていると。

そこここに思い出残す妻の跡茶渋のついた湯呑みも一つ  
 岸間 利明 (町田支部)
【評】どこを見ても思い出の残るものばかり。わけても、と具体的には日常愛用した湯呑みをあげる。「茶渋」には強い生活感あり。

親のあとならんでおよぐ鴨七羽池水に映るビル影揺らす
 余田 たけ子 (東村山支部)
【評】街での平和な光景の一コマである。鴨の親子が、池に映ったビルの影を揺らしていると見ている作者はしっかりみている。