高鶴 礼子 選

選評 高鶴 礼子

■金賞
泥つけてわんぱくそうな雪だるま  小作 宏子 (三鷹支部)

【 評 】
 おおっ、と、心が動いた瞬間が上手に捕まえられています。さりげない書き方ですが、「泥つけて」という発見が「わんぱくそうな」という直喩をしっかりと支えていて、そこが佳。肩肘張らない描写から生まれ出たお茶目な風情とあたたかい視線が魅力でした。

■銀賞
金はねえ嫁もいねえが夢はある  岩波 邦治 (狛江支部)

【 評 】
 どうです、この元気の良さ。そうですとも、そうでなくっちゃいけません。困難をグジグジメソメソ言い募るのでは
なく、困難は困難として受け止めた上で胸を張る――。それが川柳という文芸の心意気というものです。邦治さんがまっすぐに見据えた先にあるものを私も一緒に見ていたくなりました。

■銅賞
いわし雲空という名の海泳ぐ  岡田 研吾 (板橋支部)

【 評 】
 「見立て」を縁語仕立てでまとめる手法は時に新鮮でなくなりがちですが、研吾さんのこの句は、それがさわやかな空間的広がりへと結実しました。どこまでも続く秋の空が見えます。この句の持つ気持ちのよい素直さは研吾さんのお人柄を映したものでしょうか。とても好感のもてる作品でした。

佳作


再雇用久かたぶりの縄のれん  福田 定光 (文京支部)
鉋屑(かんなくず)無口な職人(ひと)の手をかたり  長田勝至(田舟) (板橋支部)
初詣今日は投げても良いお金  中村 久枝  (世田谷支部)
孤独とは一人で生きることでなし  安部 博隆 (西多摩支部
しけもく拾えど盗まんと矜持あり  森田 真一  (東村山支部)
【総評】
 回を追うごとにご応募も着々と増え、今回は百三十二句からの選出となりました。嬉しいことです。
 さらに、今回はもうひとつ嬉しいことがありました。川柳は十七音字の人間諷詠、社会や世相を題材とする場合にも、まずは自分を見つめ、そこから社会や人間を考えていこうとするのが川柳の立つべき位置であると、毎回この欄で申し上げてきましたが、この「自分をそっちのけにしない」という基本姿勢が少しずつ、みなさまの御作品の中に見え始めているように感じます。
 佳作の方々の御作品を例にそのことをお話しましょう。
 「再雇用」を詠った定光さん、久しぶりの一杯だなあという思いに焦点を当てることによって、そこにいたるまでの思いが読者によく伝わり、結果として《今》をしっかりと映し出す作品となっています。
久枝さんの句は助詞「は」の使い方が見事。ありがたさを含めたお金というものに対する畏敬の念、そしてお金に対してそうした思いを抱くことがあたりまえのこととしてあった世代、というものの存在が過不足なく描き出されています。
勝至さんの句は「職人魂」というものを書くぞぉ、と、決めて(ここが大事!)、それを「鉋屑」に語らせたところが秀逸。
真一さんの句は下五の「矜持あり」が佳。この語によって、この事象を真一さん自身がどう捉えているかということが鮮明に示され(ここが大事!)、一般論を申し述べるだけの傍観者吟とは一線を画しています。
博隆さんの吐露は真理。他者とともに在りつつ感じる孤独はいっそう濃いものです。
 さて、次回は、どんな「みなさまの中の『私』」に出会えるでしょうか。
 なんだかワクワクしてきます。