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俳句の部
敷地 あきら 選

選評 敷地 あきら

■金賞
作業衣に汗の地図書き帰りくる  宮本 照代 (西多摩支部)

【 評 】
 作業衣の汗の地図は、日本列島、いや、オーストラリヤ大陸かも知れない。掲句、厳しい現場に働く誰もが体験済みの<作業衣に汗の地図>作品、その平明さ、親しさ…。連帯の共感をさそう。
 今回、同作者の寄せられていた次の佳句も併せて紹介しておきたい。
 「懐炉背に反核署名駅にたつ」「寒風の夜間工事へのっぺ汁」

■銀賞
郷愁と袖触れ合わす温め酒  山本 邦彦 (港支部)

【 評 】
 旧暦、九月九日は、寒暖の境目とされ、酒を温めて飲むと病にかからないという伝えがあるとか。掲句、郷愁にひとり酌む温め酒…。ただし、<郷愁と袖触れ合わす>と、二人称のように詠われた面白さ、楽しさ、その俳諧性の巧みさといえよう。

■銅賞
母の日や記憶のなかの母若き  山田 洋子 (台東支部)

【 評 】
 <母の日> は五月の第二日曜日で、母の愛情に感謝し、その労苦を慰める趣旨の日。掲句、白いカーネーションを胸につけた作者の <記憶の中の母若き> とは、若しや、米機B29の東京大空襲の時代、防空頭巾・もんぺ姿の母の若き日なのかも知れない。

佳作

鉄瓶の滾ぎる囲炉裏の淑気かな  佐藤 千代惠 (西多摩支部)
木枯しが若さの前で通せんぼ  濱田 健太 (荒川支部)
初空に鴟尾夭夭(ようよう)と東大寺  渡辺 睦男 (江戸川支部)
節くれし大工らの手に柏餅  田中 明 (大田支部)
メーデーに今の願いを轟かせ  佐野 武男 (村山大和支部)
【 評 】
佐藤さん <鉄瓶の滾ぎる囲炉裏> の懐かしさ。山ふかき里で迎える新年である。
濱田さん 木枯しの <通せんぼ> は、就職困難など若者の前途を拒む悪性批判とも意欲作といえよう。
渡辺さん 東大寺の初空の <鴟尾夭夭(ようよう)> と、その和らぎの表情に心洗われる作者なのだ。ちなみに <鴟尾> は、仏殿の大棟の両端に取りつけた装飾。後世の鬼瓦や鯱(しゃちほこ)をいう。
田中さん 五月五日、端午の節句の柏餅だ。大工仕事の仲間たちに配られている。掲句、 <節くれし大工らの手に> と、一同の謙虚さと感謝の愛すべき一句である。
佐野さん メーデー参加の作者、代々木公園の会場からの句である。掲句、 <今の願いを轟かせ> では、働くものの切実な重いがこめられた貴重な句だ。益々のご健吟を期待したい。