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川柳の部
高鶴 礼子 選

選評 高鶴 礼子

■金賞
車座をひとつ残して同志(きみ)を待つ  長田勝至(田舟) (板橋支部)

【 評 】
 同じ目的のために心を尽し続けるひとへの信頼と期待、相手に対するまっすぐな心情がよく伝わってきます。「同志」を「きみ」と読ませたところが手柄。「ひとつ残して」の「ひとつ」もよく効いています。たたかいの中にある一瞬の静を情感豊かに切り取って、代替不能の「同志」が描けました。

■銀賞
夜桜や人去れば風騒ぎ出す  小作 宏子 (三鷹支部)

【 評 】
 言葉の選び方、配置の仕方、条件設定との組ませ方、どれをとってもセンスを感じます。「人間一般」とも特定の誰かを指しているとも読める「人」という語がもたらす広がり。加えて、「人去りてのちに騒ぎ出す風」を見つけたところが秀逸です。うつくしい景を描いて「狂」の匂いすら立ち昇る、印象深い作品となりました。

■銅賞
しのび寄る親も夫も逝ってから  福田 定光 (文京支部)

【 評 】
 そうなのですよねえ。生きている間は、なんということもないのです。いてくださるのがあたりまえだと、そう無意識のうちに思ってしまうのですよねえ、私たちは、つい。いてくださるということがどれほどありがたいことであったのか、そうしたことがわかるのは「逝ってから」なのですよね。そうした私たちを「あはは、いまごろ」と笑いながら、彼らは、きっと、あったかあいまなざしで見つめてくださっているのでしょう。「しのび寄る」大切なひとたちの気配を、ひとつまたひとつ、と、心に刻んでは自問を続ける作者にしました。

佳作

コップ酒串三本で天下論  中田 実 (文京支部)
草食と言われて食べる国債か  山田 守 (台東支部)
亀もまた氷の中で春を待つ  浅山 了二 (江戸川支部)
十円を笑う百円 初詣  中村 久枝 (世田谷支部)
初日の出夢つかむまで背伸びする  小山 敬吾 (中野支部)
【総評】
 今回のご応募は百五十六句。前回の総評にも書かせていただきましたが、回を追うごとに、「私」という視点を裡含む作品が増えてきているようで、喜びを感じます。
 久枝さんの句、「一円を笑う者は一円に泣く」ではありませんが、「十円を笑う百円」という直裁な表現によって、現状に対する批判のみならず、ペーソスさえも漂う作品となりました。「国債」という詩になりにくい言葉を、「草食」という流行語(これまた、使い様によっては句を軽くみせてしまう処理の難しい言葉)と取り合わせて現状を衝いた守さん、一句の柱ともなる動詞を「食べる」と、「草食」の縁語で仕立てたところがニクイですねえ。なかなかの技量とお見受けしました。実さんの句、「コップ酒」「串三本」といった卑近な材を「天下論」という柄の大きい語と合わせたところが手柄。コップを手に手に、「こんなことでいいのか!」と、盛り上がる様が見えるようです。敬吾さんの清新さには心洗われる思いが、了二さんの句は助詞の「も」で、作品の世界がグーッと広がりました。
 「私」という視点を持つ、ということは自分に関する話題のみを句材にせよ、ということではありません。今、私たちの周りで進行している事件、状況、エピソードには、いったい、どんな意味があるか、ということを、自分の頭でよーく考えてみてから書きましょう、ということです。時事を句材に採られる時は特に、この視点は必須。次回も楽しいチャレンジをお待ちしています。