年寄りの多きこの街救急のサイレンの音寒夜切り裂き
遠藤 喜一郎 (台東支部)
【評】救急車のサイレンの音を聞くと、誰にも一瞬、緊張感が走る。まして高齢者の多い街ならば不安感も。結句は、その思い。
設備投資少なくなりし企業より久々の圧電気工事なり
杉本 玲子 (江東支部)
【評】事実をたんたんとして歌っていながら、この作品は、読者にドラマを感じさせる。漢語の固いリズムも巧みに生かす。
坪庭の柚子の実もぎて風呂に入れ冬至を独り長湯楽しみ
小田部 清助 (杉並支部)
【評】庭に大事にして育てた柚子であろう。当時には柚子を湯に入れるのは昔からの習わし。柚子湯に満ちたりている気持である。
あずみ野の常念あおぎわが心麻痺体かかえ手をあわすのみ
諸星 武司 (多摩・稲城支部)
【評】この歌を読むと、安曇野にたつ野沸を思い出す。一首に、作者の敬虔な思いがしみじみと流れているのを感ずる。
今年こそ今年こそはと待つ内に手の平の胼胝いつか消えつつ
木下 文夫 (八王子支部)
【評】下句の「手の平の胼胝いつか消えつつ」は巧みである。不況に耐える姿が、具体的な形として表現されている点がよい。