写真の部川柳の部短歌の部俳句の部
コンクールトップへ

短歌の部
碓田 のぼる 選

選評 碓田 のぼる

■金賞
屋根を越え伸びたる梯子(はしご)をかかえあぐ七十歳の残る力に
 山田 訓 (北支部)

【 評 】
 七メートルもある梯子を上り下りし、また、それを動かして塗装をするのである。危険をともない緊張もするのである。
 「七十歳の残る力に」は、作者の全力的な姿がよくあらわれている。

■銀賞
金槌も鋏も鉄のひかり溜め夫と工事の出番待つ春
 篠田 綾子 (葛飾支部)

【 評 】
 作者の仕事は、季節に左右されることもあろうし、長びく不況にも影響されるであろう。「鉄のひかり溜め」は、両方の意味を含んだすぐれた表現であり、結句の「春」と呼応して一首の味わいを深くしている。

■銅賞
「ふたばでた」大きな声で駆けて来た耕太の鉢に小さき緑あり
 余田 たけ子 (東村山支部)

【 評 】
 花の種をまき、芽の出るのをどんなに待ち遠しい思いで待っていたか、幼い子どもの生きいきした姿をよくとらえている。同時にこの作品には、次の時代に生きてゆくものへのいとしみも滲ませている。

佳作

年寄りの多きこの街救急のサイレンの音寒夜切り裂き
 遠藤 喜一郎 (台東支部)
【評】救急車のサイレンの音を聞くと、誰にも一瞬、緊張感が走る。まして高齢者の多い街ならば不安感も。結句は、その思い。

設備投資少なくなりし企業より久々の圧電気工事なり
 杉本 玲子 (江東支部)
【評】事実をたんたんとして歌っていながら、この作品は、読者にドラマを感じさせる。漢語の固いリズムも巧みに生かす。

坪庭の柚子の実もぎて風呂に入れ冬至を独り長湯楽しみ
 小田部 清助 (杉並支部)
【評】庭に大事にして育てた柚子であろう。当時には柚子を湯に入れるのは昔からの習わし。柚子湯に満ちたりている気持である。

あずみ野の常念あおぎわが心麻痺体かかえ手をあわすのみ
 諸星 武司 (多摩・稲城支部)
【評】この歌を読むと、安曇野にたつ野沸を思い出す。一首に、作者の敬虔な思いがしみじみと流れているのを感ずる。

今年こそ今年こそはと待つ内に手の平の胼胝いつか消えつつ
 木下 文夫 (八王子支部)
【評】下句の「手の平の胼胝いつか消えつつ」は巧みである。不況に耐える姿が、具体的な形として表現されている点がよい。