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川柳の部
高鶴 礼子 選

選評 高鶴 礼子

■金賞
道具なし裏表なし我が野点   冨宇加 榮 (調布支部)

【 評 】 茶道の一場面であるかのように描かれた字面の背後に、生き方に対する骨っぽい姿勢が浮かび上がってくるところがステキです。茶道の「裏千家」「表千家」と掛けながら、「道具なし」(=人生に形式的なお膳立てや流儀など不要)、「裏表なし」(=人間としての表裏など、もちろん無縁)であると言い切ったところなど、惚れ惚れとしました。荒野に我あり、の生をまっすぐ顔を上げて直進する――。潔さのいっぱい詰まった、いい句です。

■銀賞
飴二つ分けてほおばる給料日   中村 久枝(世田谷支部)

【 評 】 「分けてほおばる」に作者の等身大のやさしさ、あたたかさを感じます。「飴」の数を「一つ」にしなかったところがいいですね。「給料日」という結語で、「飴二つ」の「二つ」(「一つ」ではないところ)に説得力が生まれました。かわいくて、しかもちょっぴり切ない読後感が魅力です。

■銅賞
被災地を残してすぎる年の闇   丹野 俊彦(西多摩支部)

【 評 】 「残してすぎる」という措辞の的確さが光ります。それは、「残してすぎる」ことに対する無念さ、申し訳なさを、作者が誰よりも真摯に感じていらっしゃるからでしょう。一年の締めくくりは自省の刻でもあります。被災地を思う思いに「年の闇」を配した構図にも共感しました。

佳作

熱燗と親の意見は腹におち  小野寺 盛雄(調布支部)
国宝の寺が遊び場雀の子  小作 宏子(三鷹支部)
スコップで人の温もり掘りおこす  木村 昇(板橋支部)
原発で三度転居の母子は友  島崎 とも子(西東京支部)
冷夫婦温める燈油あったかな  及川 勝人(東村山支部)
【総評】 今回のご応募は二百十六句。内容的には、昨年三月に起こった未曾有のできごとを受けて、東日本大震災を詠んだもの、不甲斐ない為政者への批判をモチーフとしたものが多くありました。
 社会に対してもの申すという立ち位置で句を書くことは大変、いいことなのですが、そうした際に忘れてはならないことが、ひとつ、あります。それは事件やできごとの上っ面だけを見て書かない、ということです。揶揄や報道の後追いだけでは、どうしても、句が薄っぺらで底の浅いものになってしまいます。句を書かれる時には、事象の背後や事件の底にあるものはいったい何なのか、事件やできごとの本質は何かということをしっかりと見極めて書く、ということに、どうかご留意なさってください。丹精込めて産み落とされる、せっかくの作品が、「そうですか」だけで終わってしまうのは、あまりにも残念なことです。
 さて、それでは、恒例となりました佳作の方々へのメッセージと参りましょう。
 盛雄さんの句、言葉がとってもコナれていて、古川柳のような味わいがあります。「親の意見」に対置する形で「熱燗」という具象を持ってきたことによって、キューッと沁みてゆく親のありがたみ、哀しいほどにあたたかなあの感覚が増幅されました。
 宏子さんの句は、さりげなく書いてありますが、発見があってなかなかです。「国宝」なんぞということを決めるのは人間の勝手。国宝であってもなくても、寺は寺であり、雀さんたちはそこでずっと餌を啄ばみ、水を飲みして暮らしているのですよね。肩書きや謂れによって評価を変える人間心理のおかしさを衝いているところに惹かれます。
 昇さんの句にある自然体、とも子さんの句に漂うリアリティーと友を案じる思い、勝人さんの句の素直さも、好感の持てるものでした。
 私たちの周りにはできごとがいっぱい。心を動かして、それを受け止め、川柳という文芸のかたちにして、みなさんがそれぞれに直面しておられる「今」を発信なさっていってください。
 たくさんのご投句、ありがとうございました。