碓田 のぼる 選
選評 碓田 のぼる
■金賞
菩提寺の新築成りて正面に我が手に成れる虹梁が映え
小田部 清助 (杉 並 支部)
【 評 】 先祖の眠る菩提寺の新築にかかわった作者の労働の喜びと誇りが、たしかなリズムに支えられて表現されている。「虹梁」は玄関上の化粧梁のことであろう。快心の作であることが結句にこもる。対象をよく見とどけている。
■銀賞
冬の日はすぐに暮るると壁を塗る原君も峰君も茶を飲みにこず
山田 訓 (北 支部)
【 評 】 この歌の表現の面白さは下句にある。この口語的なさりげない表現が、生活の匂いをたててくるのは、云うまでもなく上句である上の句と下の句が巧みにつながっているのである。短い冬の日に、予定した仕事を終らねばならない緊張がある。
■銅賞
洗はむと夫の作業着まさぐれば深夜作業の許可証の出づ
杉本 玲子 (江 東 支部)
【 評 】 洗濯しようとした夫の作業着から深夜業の許可証を見つけたというこの一首には、生活というものがリアルに表現されている。夫によせる思いが、驚きと新鮮さをもって読者に伝わってくる。主観的な感情表現が抑えられている点が良い。
佳作
おみくじの解釈われの自由なり凶を引くとて明日はあかるき
宮本 照代 (西多摩 支部)
いろいろな手のひらよせて焚火する建設現場の仕事始めよ
小野 かほる(西多摩 支部)
冬枯の林の中に澄み渡る大気揺るがすヒヨドリの声
矢島 栄枝 (大 田 支部)
貼り終えし壁に夕陽が映えいれば道具しまいつこころ満ちくる
篠田 綾子 (葛 飾 支部)
玄翁の胼胝消え久し昨今は不景気更に老化追いうち
島崎 強 (西東京 支部)
【評】 第28回仲間の作品コンクールの短歌作品には、69首の応募がありました。今回は、例年にくらべ、応募者の意気込みが少し足りなかったのでは、という印象を持ちましたが、しかし金、銀、銅に続く、佳作の人々の作品は、さすがに力がこもっており、注目しました。
<宮本作品>は実にのびのびした楽天性が歌われており、おみくじなどに一喜一憂しない作者の生き方の強さを示しています。
<小野作品>は、「いろいろな手のひら」を見つけて歌っている所が個性的で新鮮です。作品には連帯の思いも強く滲んでいます。
<矢島作品>は落着いた自然観照です。作品には透明感があって、ヒヨドリの声が生きいきとひびいてくる感じがします。
<篠田作品>は、予定した仕事が終えたその充実感、とりわけ下句の「道具しまいつこころ満ちくる」によく現れています。
<島崎作品>は、啄木の「はたらけど/はたらけど」の歌を連想させます。そうした思いで作者は持ち馴れた玄翁のタコを見ています。